2015年2月14日土曜日

鈴木大拙全集

 2月9日(月)、丹澤先生より、鈴木大拙全集40巻をいただいた。古書店に話したら、全部で500円と言われたそうだ。それならばとて、小生にお宝が廻ってきた。古書店、さまさまである。

 東洋医学が、東洋思想を背景とするならば、鍼灸学校の図書館に架蔵されるべきである、至高の全集である。吉川幸次郎全集も欲しい。鍼灸大学にはあるのかな。(鈴木大拙については、ウイキペデイアで調べてください。)

 さて、その40巻、どの順番で読もうか。作戦がきまらないまま、適当に取ったのが第26巻。さっそく、目次から、「東洋が西洋に教へるもの」を選ぶ。昭和34年の、電力中央研究所における講演録だそうである。

 東洋的境地というものが、「漢民族の文化が高潮に達した唐に出て来た。その後は北方から野蛮な人々が入って来て、漢民族を圧迫してしまったので、純粋の漢民族の文化としては、唐時代に於て最も現われているのであります。」

 中国医学の歴史も、もう一度、問い直す必要があろう。いま、中医学の根幹をなすのは、その野蛮な人々たちが形成した鍼灸医学なのである。それが悪いというのではなく、唐の医学と、雲泥の差があるかも知れない。おなじ延長線上にあると思っているのを、もう一度見直す必要があるかもしれない。

 というように、すぐに感化されるのである。目からウロコが落ちるのである。書院に架蔵しておくので、読んでみたい人は、お貸しします。完食せずも、短編のつまみ食いでも美味しいですよ。


 

 

2015年2月9日月曜日

あい忘る

 森共之編の『意仲玄奥』は、御園意斎(1557~1616)に師事した森家の秘伝書である。意斎には、初代の宗純と、その次男の仲和が師事しているが、とくに仲和は子供の時から師事していて、上工のほまれ高かったようである。その孫が共之で、仲和の弟子の大槻泰庵のノートを元に、自流について整備した秘伝書である。

 その中に、共之のメモとして、「腹脈診法の要訣。此れ共之、多年の修行、晩年に至り得る所なり」、と但し書きした上で、「医者の手指と、病人の皮膚と相い忘れて後に方(はじめ)て吉凶死生を診得すべし」と書いている。

 このようなお言葉には、いろいろ古典を読んでいるが、遭遇したことがない。秘伝書ならではの、ちいさなメモである。大言壮語するわけではなく、日常の何でもないことばを、次の世代に伝えようとする、真摯な心持ちがよく現れている。

 長年の修行の上に、「相忘」の境地に達したという。『荘子』の「坐忘」「木鶏」を思う。診察せねば、診察せねば、という気持ちがすり減っていって、ごく自然に病気の核心をつかみとっている、そんな姿を想起する、今世紀至高の明言ではないでしょうか。

 「相」とは、医者と病人の双方、どちらも。「忘」とは、亡に通じ、無になること。医者は診察しようという気持ちを忘れ、身体の情報が自然に拾えること。病人は、診察されていることを意識しないこと。自然に、流れるように、なめらかに、有るようで、無いようで、そして自然に治療する。「相忘る」とは、なんと思いが深いことばではないでしょうか。

 みなさん、本は高いとか、古典は読まないとか、あれこれ言うけど、このような至言に巡り会った時のよろこびは、まさに千金に値します。本でも、古典でも無くても良いのですが、ぼくの場合は本であり、古典なのであります。

 

2015年2月1日日曜日

岩国(その2)

  小曽戸先生の『新版 漢方の歴史』の177ページに、
「独立性易(しょうえき・15961673)は、渡来中国人として江戸時代の医界に最も強い影響を与えた人物である。・・・・医術のほかに書画・詩文・篆刻にも長じ世に聞こえた。痘科に秀で、岩国で池田正直にその術を伝授。」
  とある。今回は、その舞台に行ったということになる。

 藩主の吉川広嘉が、病気治療のために、長崎から独立を呼び寄せて、その時に医学も広めたようである。広嘉は、この時、岩国城の前を流れる錦川の架橋に悩んでいたところ、独立にみせたもらった『西湖遊覧志』に、杭州の西湖に島づたいに架けられた6連のアーチ橋があることを知り、これをヒントに5連の錦帯橋ができたと言われている。意外にも、東洋医学と錦帯橋は、つながっていたのでした。

 錦帯橋の弓形の橋を拱橋(きょうきょう)というらしいが、錦帯橋は五連の拱橋で構成されていて、「五橋」とも言われている。同名のお酒もあり、これは県外には出していない、地元限定のお酒だそう。

 木造で、巻金(まきがね)、鎹(かすがい)で補強し、釘などの金属で固定した、世界に類例のない貴重な橋のようです。その巻金、釘は、薬師寺や法隆寺の釘などを作っている鍛冶屋さんにお願いし、木材はすべて国産だそうです。

 今回、かろうじて、材料がそろい、人物もそろい、技術もそろったが、次の架け替えのときには、いずれも揃わないだろうと言われている。

 鍼灸の、材料、人物、技術を考えれば、鍼灸を受け継ぐことは、まあ安泰というところか。ただし、古い技術は、だんだん廃れそうである。打膿灸、、切り艾、九鍼。しまいにゃ、パイオで間に合い、台座灸で済むようになったら、すごいことになるかもしれない。いいのか、悪いのか・・・

 ところで、『漢方の歴史』は、1700円+税のところ、1500円(送料別)でおわけします。また、近著の『鍼灸の歴史』は、1800円+税のところ、1600円(送料別)でおわけします。希望者は、miyakawakouya@gmail.com に連絡してください。